こんにちは、ドクダミ淑子です。
物語というのは不思議なもので。
漫画もドラマも小説も映画も、それがフィクションだとわかっているのに、物語の続きや一度完結したものの「その後」が気になって仕方がない。
あの人はあの後どうしているんだろうか?と考えてしまう。
作者からその「続き」が提示されない物語に対して、また作者が表現していないシーンに対して想像力を膨らませると、それは「二次創作」というジャンルになる。
私はその世界には疎いんだけど、その気持ちもわかる。
あのシーンとあのシーンの間にどんな出来事があったか?
この人は普段どういう日常生活を送っているか?
・・・想像し出したらきりがない(から、あまりしないようにしている)。
さて、そんな中、シリーズ3作になっているこの小説を読みました。
シリーズ1作目の感想はこちら。
もしも最初から読んでみたいと思った人は、ここから先はネタバレあるので引き返してください。
どんな内容なの?
ここからネタバレになります。
公式サイトによると、こんな内容です。
・・・って書こうと思ったけれども、大した内容が書いてなかったのでこちらから引用しました。
ファシズム政権下で同性愛が禁じられている近未来の日本。ミチルは、公演中の落下事故で記憶と最愛の人を失った。秘密警察に追われ、収容所へ送られてしまうが、レジスタンスに助けられ、自分が何者なのかを問いながら巡礼路を歩き続ける。十字架を背負い、苛酷な運命に翻弄され、四国遍路からスペインの聖地へ。孤独な魂の遍歴と救済、壮絶な愛のかたちを描いた王寺ミチル最後の黙示録。
第一作のあらすじは、これですよ?
自分とセックスしている夢を見て、目が覚めた――。女から女へと渡り歩く淫蕩なレズビアンにして、芝居に全生命を賭ける演出家・王寺ミチル。彼女が主催する小劇団は熱狂的なファンに支えられていた。だが、信頼していた仲間の裏切りがミチルからすべてを奪っていく。そして、最後の公演の幕が上がった……。スキャンダラスで切ない青春恋愛小説の傑作。俊英の幻のデビュー作!
そう、最初は青春小説だと思っていたんですよね。
実際にそうだった。
第一作は、下北沢とか高円寺あたりにいそうな、演劇に情熱を注ぐちょっとミステリアスな女性とその彼女を献身的に支える人と、彼女に恋心を抱く人たちの物語だったもの。
それが、第二作ではヨーロッパを旅しながら自省をする「自分探し系」青春小説になり、そこからまた日本に帰ってきてからの物語が始まるのかと思いきや・・・記憶喪失!ファシズム!収容所!となって、「ハアァァァァア?」と声が出てしまう展開になった。
なんか、この小説こそ「二次創作」なんじゃないか?と思うほどの変貌っぷりだったんだけれども、それでも読み進められるし、舞台設定ががらりと変わっていても、「ミチルさんの物語なのだ」と思えるのがすごいな、と思った。
きっとこれは、ミチルさんのキャラがブレていないということと、これを書いた当時の作者が本当に描きたかったものだからなのだろうな・・・と思った。
正直なところ、今までツンデレだった主人公がディスクを入れ替えたら人が変わったようにデレデレになっていたFFシリーズ(たしか8)みたいに「設定どうした?」ってなったんだけれども、でもこれは読者として受け入れなければいけないものなんだろうな・・・と思った。
何度も書くけど、世界観が変わろうとも読み進められるというのは、それはそれは作家としての良さがあるのだろう。
愛とは何か?という作者の壮大な問い
『猫背の王子』『天使の骨』に続き、3作目となる『愛の国』。
このシリーズは一貫して「愛とは何か?」を突き付けてくる。
- 生身の人間を愛せない、演劇に愛を注ぐミチル
- そんなミチルを支える、トオル
- 身体は満たされつつもミチルの心をも欲する、女たち
- 愛する演劇を奪われて死を意識するミチル
- 初めてかもしれないほどの「愛」を感じるミチル
- 全てを失ってなお、愛に生きるミチル
- 尼僧たちの「愛」
- 愛する女に子供を持つことの幸せを見出させようとするミチル
もう、よくわからんほどに「愛」を叩きつけてくる。
今までは現代日本の中ですんなり描かれていた「同性愛者」という設定が、今回の世界ではそもそも否定され、迫害され、そして改めて「考える」きっかけになっている。
「愛」とは何なんだろう?
「性愛」とは何が違うのだろう?
ゴールがなければ、結果が伴わなければ、周りに祝福されなければ、それは愛ではないのだろうか?
恋人にならなくても、結婚しなくても、生涯にわたって支え合い続ける関係は、愛ではないのだろうか?
自分が異性愛者であっても、「愛とは何か」という問いが様々な方面からドンドコと振ってくるこの小説は読む手が止まらず。やっぱり「忙しい中でも読書をするためには、忙しくても読みたいという本と出合うことが大切だよな・・・」と思ったのでした。
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